梵鐘
ぼんしょう
概要
笠形頂に火焔宝珠を奉安する背向双龍形の龍頭を置き、笠形を二段甲盛につくる。鐘身は最上部に牡丹唐草文を陽鋳した上帯をあらわし、これに続く、三方を唐草文帯でかこんだ乳の間には蓮華座付乳頭形の乳を三段三列に配し、下帯に至るまでの間地の下方には龍頭長軸線上に各1個の間弁付八葉蓮華形の撞座と、菩薩・楽器を持つ楽天を陽鋳し、さらに上方には12行、82字からなる文亀元年の紀年銘をもつ陰刻銘を記し、本品がもと、「対馬国佐護郡観音堂」の鐘であったことが知られる。下帯には海波・双龍文を陽鋳し、最下端の下縁に駒の爪をあらわしている。
龍頭と駒の爪に和鐘の特色をとどめるが、総体に朝鮮鐘の趣が随所にみられる鐘で、このような形式の品を日鮮混淆形式鐘と呼ぶ。中世の遺例として本品を含め5口が確認されているが、うち3口が芦屋鋳物師の手になる。本品は刻銘により花田藤左衛門吉次の手になるものと知られるがこれも芦屋系の鋳物師かと考えられており、中世芦屋鋳物師の活躍を知るうえに興味深い資料性をもっている。対馬という日鮮の文化が交差する地で制作された特異な形式の遺例である。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.291, no.65.