暮色
概要
10
暮色
Evening Twilight
1922年
絹本墨画・軸 53.5×84.0cm
大正期の横山大観は、没線着彩を主体とする流麗な作品と、墨色を基調とする雄渾な作品を交互に描いている。着彩画には《作右衛門の家》(1916年)、《千与四郎》(1918年)、《柿紅葉》(1920年)などがあり、大和絵や琳派の装飾的構成を研究した跡がうかがえる。これらは大観の色彩画家としての優れた感覚を示す作品群である。一方水墨画には《漁樵問答》(1915年)、《雲去来》(1917年)、《山窓無月》(1919年)などがあり、樹木や山肌、雲海等に量感を与えるために用いた片ぼかしの手法は、その後若い日本画家の間に大きな反響を呼び、一種の流行となった。
この時期大観が着彩画と水墨画の制作を並行して進めたのは、色彩によって墨を、墨によって色彩を研究したからだと言われている。対極を成すとも考えられる二つの手法を試みることによって、自分自身の表現に幅をもたせるとともに、芸術のより高度な展開の可能性を探ったのである。《暮色》はもちろん水墨画の系列に属するが、しかし墨色特有の硬さはない。柔らかく、しっとりとした感じをだしており、着彩画のもつ情感を巧みに水墨に生かした表現である。大観十種展に出品された。