紙本墨画舟行送別図
概要
本図は子溪なる京都五山の少年の帰国に際し餞別として製作された、送別図の一例である。
かなり縦長の料紙の下端近くに一艘の帆舟を描き、最下端に波間に浮かびあるいは飛ぶ六羽の鴨を配す。周辺にひろがる水波は、細線で三角に粗密をつけて描き、さらに淡墨の暈しを加えて調子を高めるという細やかさを示す。簡略な図様でありながら、水禽の配置や水波の表現は要を得ており、広々とした空間は詩情に満ちている。時代の山水表現の進展をうかがわせる作品である。上部に六僧による賛が三段に書されるが、下るにつれて左に寄せたその配置にも図の空間を生かす配慮が認められよう。
製作の時期は、賛者の一人である江西龍派(一三七三~一四四六)が使用している印章と雅号の変遷から、永享六年(一四三四)から八年頃と極めて狭く限定することができる。賛者はいずれも当代一流の五山僧であり、永享期の詩画軸の優品として推されるものである。