釈迦霊鷲山説法図
しゃかりょうじゅせんせっぽうず
概要
釈迦の浄土と称される、天竺(インド)摩掲陀国の王舎城外にある霊鷲山中で、釈迦が説法し、諸菩薩・十大弟子・四天王・諸天部が聴聞する情景を表し、背後に霊鷲山の山並み、手前にも多めに自然景観を描いている。釈迦を初めとする諸像は、平安時代に確立された仏画の様式を基としながら、中国・宋の画風も取り入れて、華麗さに軽快さを加えた清新な趣を示す。自然景の表現は、特に下部において、山や岩、土坡、瀧と水面など地形の諸要素を含み、松や花咲く樹木も配しており、青緑の鮮やかな彩色も、唐風を基に平安時代に練り上げられた山水表現の様式を正しく受け継ぎ、情趣深いが、端正に整理され、やや沈静の感さえある点に、鎌倉時代らしさも示している。この部分は、全体の中でかなり大きい割合を占めており、単なる自然描写ではなく、霊鷲山に到るまでの道の表現であることが、他の諸作品を参照することによって明かとなり、この図を単なる説法図に留まらせず、釈迦の遺跡に対する憧憬を表す独特の図としている。