刺繡阿弥陀三尊来迎図
ししゅうあみださんぞんらいごうず
概要
掛幅装仕立て。本紙部分に雲に乗り正面向きに来迎する阿弥陀三尊像を表すほか、表装部分にも阿弥陀の来迎を荘厳するにふさわしい種々の意匠を、すべて刺繍によって表した繍仏である。本尊阿弥陀の光背には阿弥陀の種子「ア」四八箇を、本紙部分上部の色紙形には『無量寿経』中の偈を、中廻し・柱には蓮華唐草文および釈迦・薬師の種子「バク」・「バイ」を、天には二十五菩薩の種子を、地には蓮池および不動・毘沙門を表している。また両軸端の面部にはそれぞれ一名の僧形(うち一名は図像から唐代浄土教の祖師善導【ぜんどう】に比定される)を紙本着色で描いて貼りつけ、上に水晶製の軸頭を被せて円筒形の銀製鍍金の透彫金具を嵌め、八双には金胴製の八双金具および吊金具を付している。
刺繍は多彩な色糸に一部毛髪を交え、平繍い・刺し繍い・暈繝【うんげん】繍い・留繍い・返し繍い・纏【まつ】い繍いなどの技法を駆使しておこなっている。
来迎図を刺繍で表した繍仏は、鎌倉から室町時代の製作になる二〇例ほどが知られているが、その多くがほぼ同図様の斜め形式の立像阿弥陀三尊来迎図であり、製作年代もほとんどが室町時代以降とされる。本件のように正面向きに来迎するさまを表した例は、藤田美術館蔵の刺繍釈迦阿弥陀二尊像(重要文化財 鎌倉時代後期-末期 釈迦・阿弥陀および観音勢至の来迎を表す)などとともに希少な部類に属している。
尊像の均整のとれた体躯【たいく】や理知的な顔貌表現、明るく多彩な色調、的確な繍技など、画風・技法的にも類型におちいらない精妙さをみせており、金具類の整美な作りも含めて、藤田美術館蔵品とほぼ同時期の鎌倉時代後期から末期ころの製作になるものと判断されるが、とりわけ着衣の文様部分などに見られる細緻な繍技や、繍の方向と密度を微妙に変えて陰影や立体感を巧みに描写する表現力は特筆され、この種の来迎図繍仏の中でも出色の作行【さくゆき】を示す優品である。