羅漢図
らかんず
概要
当初十六羅漢図を構成した一具十六幅中の二幅にあたると思われる。一幅は山峡に歩を進める虎の背に跨がる老羅漢で、右手に唐扇を掲げ、左手に虎の手綱を執る。その背後には竹杖を肩にする頭巾姿の侍者と忿怒の形相の蓬髪の鬼者が従う。他の一幅は庭前の一巨石を背に半跏する長耳朶の老羅漢で、両手を膝前に組んで片足を支え、顔は頭上に演ぜられる奇蹟を見上げており、幞頭巾姿の侍者や唐獅子を相手に仕草をする童子のほか、右手の一岩峰上部には経筥らしきものを持って雲中より湧現する一童子の奇蹟があらわされる。
肥痩のある淡墨の筆線に、比較的薄手の彩色を施したとみられるが、線質は必ずしも宋元風のものではなく、筆速を殺した圭角の少ない丸みのあるものである。画中「南都眉間寺」の伝承銘が記され、その伝来を明らかにしうるが、鎌倉時代の南都系仏画にはこのようにしばしば宋元仏画の技法を受容しながら独自の表現様式を示すものがみられる。本図の特徴はまさにそれに合致し、鎌倉後期に宋元羅漢画を手本として南都において制作されたものと認められる。羅漢の像容は、「禅月様羅漢」や「李龍眠様羅漢」とは異なるところがあり、金大受ないしは陸氏一派の浙江羅漢画のそれに近似することが指摘される。宋元の間に制作された中国羅漢画の一本を写す南都系羅漢画の数少ない遺品であり、その堅実な作技と合わせて注目すべきである。
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