寸松庵色紙(ちはやふる)
スンショウアンシキシ(チハヤフル)
概要
「寸松庵色紙」は、伝小野道風筆の「継色紙」と伝藤原行成筆の「升色紙」とともに、三色紙とよばれる古筆の名品で、紀貫之(872~945?)を伝称筆者とする。大徳寺龍光院の子院である寸松庵に住した茶人・佐久間真勝(あるいは直勝とも、1570~1642)が愛蔵したことから、その名がある。 現在、臨模の可能性が指摘されるものも含めると、『古今和歌集』の巻第1より巻第6にいたる41枚が諸家に分蔵され、うち10枚は重要文化財の指定をうけている。これらは、いずれも方形の料紙で1紙ごとに伝来するところから、色紙というが、もとは粘葉装の冊子本であった。文化元年(1804)に刊行された『古筆名葉集』には、「唐紙地哥チラシ書」とあるごとく、舶載の唐紙を用い、雲母で唐草・亀甲・花襷・などの文様を摺りだす。 この1幅は、草花文様が鮮やかに残る唐紙に、『古今和歌集』巻第5・294番歌、在原業平(825~80)の有名な「ちはやふる…」1首を散らし書にする。自然でありながら品格あふれる筆跡は、優美な料紙とみごとに調和し、狭い紙面に上句と下句を巧みに配列することで、余白の広さを効果的に生み出すなど、もはや総合芸術といっても過言ではない。古筆了眠と古筆了延の極札が附属する。