銅獅子鎮柄香炉
どうししちんえごうろ
概要
仏教誕生の地である古代インドでは、うやまうべき神や人に対して、花をたむけ、お香をたき、火をささげる風習がありました。これが仏教にも取り入れられた結果、花・香・火の3つは、仏像にささげる最も基本的な3つの供物(そなえもの)と考えられるようになりました。このため、仏教では香をたく道具である香炉(こうろ)が、早くから使用されてきました。香炉に持ち手である「柄」(え)をつけたものが柄香炉です。柄香炉は仏教の僧侶が持っておくべき道具の一つに挙げられるほど、大事なものとされ、仏教にかかわる道具の中では長い歴史をもちます。インドで発生した仏教が、中国や朝鮮半島を経由して日本に伝来したのは、6世紀中ごろとされます。柄香炉も、おそらくさほど間を置かずに、日本にもたらされたと推測されます。日本に現存する最古の作品は、現在東京国立博物館の法隆寺献納宝物の中にある、飛鳥時代7世紀の作品です。
この柄香炉はそれから1世紀あとの作品です。銅を鋳造してパーツを作り、接合して仕上げています。口がアサガオ状に開いた容器が、香を入れる炉です。その下には花形の座があって炉を支えています。炉には長い柄を取り付け、炉の縁(ふち)と柄が接する部分に、2個の丸い飾りのある銅板をつけています。柄の先は90度に曲げ、獅子をかたどった「鎮」(ちん)つまり「重(おも)し」を据えています。重しといいながら、装飾の意味あいが強いものです。獅子は前足をふんばり、尻尾(しっぽ)を高く上げ、力強い姿にあらわされます。こうした形式の獅子鎮香炉は、8世紀の日本や中国で作られており、いくつかの作例が残っています。この柄香炉には、中国でよく使われた、金属の彫刻文様があり、中国製の可能性もあります。日本が他国から仏教文化を精力的に取り込んでいた時代状況を、よく示す例といえるでしょう。