パリ・ソンムラールの宿
概要
大阪に生まれた小出は、小学生の頃から四条派の渡辺祥益に日本画を学ぶ。東京美術学校日本画科に進むが、のち西洋画科に転科した。帰阪後、《Nの家族》(大原美術館蔵)が樗牛賞を受けて、二科展で活躍した。
1921(大正10)年秋、小出は渡欧を果す。フランス・パリのソンムラール街に投宿し、そこを拠点にベルリンや南フランスのカーニュを訪れた。ただ、パリ到着後早々にパリ画壇への失望を妻への手紙に記し、帰国船を手配している。滞欧期間は5か月余りという短さであった。本作品は、短い滞欧生活の中で生まれた数少ない作品の一つであり、投宿した部屋の窓から望むソンムラールの街並みが重厚な色調で描かれている。軽々とした筆触で、建物の遠近感や手すりの質感を描いており、技量の高さがうかがえる。なお、近年の調査により、支持体はボードであることが判明した。携帯を目的とした支持体に描かれていることから、帰国船の中で制作された可能性を含め、制作時期を1921年から1922年に亘るとする見方もある。