鳥
概要
御舟の「鳥」は、正確には「鵯(ひよ)」の図である。画面中央よりやや左寄りに、次のような記述があることで分かる。
「謐 燕 雀類中ひよどり科に属する鳥形つぐみに似て尾長く足細し背部は蒼灰色胸腹部は灰青色にして黒い色ノ斑有性機敏にして飛翔巧也 十二月八日写」
ここには飛翔している姿と木に止まっている姿、それぞれ二態のほかに、頭部や羽や尾や足先といった細部が描かれていて、一種の図鑑とみてもいい仕立てになっている。
それほど御舟の観察が鋭いということだし、また彼の研究が徹底しているということでもある。しかしこの精緻はもちろん博物学者のそれではない。
速見御舟の目はいつも鋭く、あいまいなものをのこすことを嫌う。しかしそれにしても、彼の視線はやはり画家以外のものではないだろう。世界を区々別々に分類して、標本箱をつくるのではなくて、画面の余白を蹴って、ただ一羽の鳥を羽ばたかせるためにある目なのである。(東俊郎)