春日社寺曼荼羅
かすがしゃじまんだら
概要
奈良の東郊に位置する春日社と、その西に伽藍を構える興福寺とを、上下に組み合わせて、一体の関係にあることを示し、神仏習合が浸透していた中世の信仰の様相を端的に表している。興福寺部分を、伽藍ではなく諸堂舎の安置仏像で表す図が普通で、またその方が先に成立していたと思われ、本図のような形式は遺品が稀である。春日社は、一の鳥居からはじめ、奥の左手にある本社、右手の若宮など主要な社殿を写し、上部御蓋山と春日山を配し、山の端には金色の日輪が覗く。御蓋山の上には、左に釈迦如来・薬師如来・地蔵菩薩・十一面観音菩薩という、本社四神の本地仏、右に若宮の本地仏、文殊菩薩が、それぞれの神殿から立ち上る雲に乗って現れている。春日社と興福寺とを隔てる霞の部分で、上部は縦の軸が東西、下部は縦が南北と、方位が九十度ずれている。図全体に地理的正確さを求めず、社寺各々を明瞭に写すことを重視したためである。興福寺の伽藍は、中・東・西の三金堂をはじめ諸堂舎が精細に描かれ、堂内に仏像が見えるところもある。下端部の猿沢池や、小道・細流なども写され、総じて実感に富む表現である。