写経手鑑「紫の水」
しゃきょうてかがみ「むらさきのみず」
概要
厚手の折帖(表16面、裏14面)の表裏に、38葉の写経断簡等を貼り込んだ手鑑。手鑑とは、筆写の手本あるいは鑑賞の対象として、古人のすぐれた筆跡を集めたものである。手鑑には、写経・文書・記録・歌集などさまざまな分野の筆跡を貼り込んだものがある一方で、特定の分野に対象を絞って集められたものもある。本品には、絵因果経・大聖武・二月堂焼経といった奈良時代の写経から始まって、飯室切や装飾無量義経・戸隠切・泉福寺経といった平安時代の装飾経、勝利寺本絵因果経など鎌倉時代のものまで、各時代の写経の名品ばかりが収められ、しかもそれぞれの断簡の行数が多いのが特徴である。たとえば、伝聖武天皇筆の賢愚経切(通称大聖武)は、通常は3行程度の断簡が多いのに対し、本品に収められる断簡は7行ある。なお、本品には写経でないものが1点だけ含まれる。宝亀5年(774)の浄野人足解は、もと正倉院に伝来した文書で、奈良時代の写経生が写経用の筆を申請したものである。