手鑑「たかまつ」(百八十六葉)
てかがみたかまつ
概要
三井家に伝来して「たかまつ」と称された古筆手鑑である。折帖の表裏各五〇面に貼付された古筆切は総計一八六葉で、各葉に付された古筆極の伝承筆者によれば、表は天皇・皇族、摂関、公卿、名人の七八名、八六葉、裏は能書、武家、高僧、歌人、女人、連歌、唐人の七九名、一〇〇葉に配列している。
冒頭には賢愚経巻第六断簡(大聖武、一三行)、ついで法華経巻第五断簡(蝶鳥下絵切、二〇行)を掲げ、平安時代の古筆切としては万葉集巻第十断簡(元暦校本、有栖川切)、古今集巻第二断簡(高野切)、古今集巻第十一および第十二断簡(本阿弥切、二葉)、古今集巻第十四断簡(筋切【すじきれ】)、後拾遺集巻第十断簡(中院切)など古筆切の代表的遺品を収め、また鎌倉時代のものとしては、千載集巻第十断簡(八幡切)、伏見天皇宸翰拾遺集巻第二十断簡(筑後切、巻末)などを掲げている。その他、崇光天皇、後小松天皇、近衛家基、近衛信尹、一条兼良、藤原俊成など名家筆跡を網羅している。
本帖の特徴は、歌集断簡が八七葉あって、所収古筆切の約半数を占めていることで、特に勅撰集断簡は古今集から新拾遺集までのうち十六代集の五六葉を収めている。また業平集、九条右大臣集などの私家集断簡があり、小大君筆とされた元真集断簡は西本願寺本三十六人家集、加賀切と異なる別本として注目され、藤原忠家筆とする寛和元年八月十日殿上歌合断簡は二十巻本歌合の断簡として価値が高い。なお、所収古筆切の料紙の多くが唐紙、金銀泥下絵など変化に富んだ装飾紙であることも特徴で、本帖の編纂が周到な用意の下に行われたことを示している。
本帖の表裏の表紙見返には狩野周信筆の山水画が描かれ、周信は十八世紀前半に活躍した奥絵師であり、本帖の成立もその頃と考えられる。本帖の内容は、古筆家の台帳とされる「翰墨城」「藻塩草」「見ぬ世の友」(共に国宝)に次ぐもので、江戸時代に盛行した古筆手鑑の代表的遺品として貴重である。