絵因果経巻第四上(二十五行)
えいんがきょうまきだいよんじょう
概要
絵因果経」は、料紙を上下の二段に分け、その下段には『過去現在因果経』(劉宋、求那跋陀羅訳)の経文を一行八字詰で書写し、上段には経文の内容を絵画化したものである。その『過去現在因果経』は仏伝の一種で、釈迦が過去世において善慧仙人という修行者として普光如来に師事したという本生から説き出され、その因縁により現世に仏陀として成道し、大迦葉を済度するところまでを説く経典である。
現存する奈良時代の「絵因果経」としては、上品蓮台寺本、醍醐寺本(報恩院本)のほか、出光美術館本、益田家旧蔵本、東京芸術大学本が知られているが、この「大光明如日正中迦」から「如我道真也諸弟子」までの二十五行分は益田家旧蔵本(巻第四上)より分かれた断簡である。
内容的には、火を崇拝する婆羅門である迦葉三人兄弟を教化する場面の一節にあたり、迦葉三人兄弟が釈迦の神通に驚いている場面と、朝に火を崇拝する儀式を行うために火をつけようとするが、火がつかないのは釈迦の仕業ではないかと思っている場面が描かれている。経文の筆致は、いかにも奈良朝の写経らしく謹厳で力強く、絵に施された丹朱・緑青・胡粉・群青などの彩色も大変鮮やかである。
「絵因果経」は奈良時代の絵画を今に伝えるとともに、後の絵巻の先駆的作品としても位置づけられる実に貴重な遺品である。なお、益田家旧蔵本(巻第四上)より分かれた断簡としては、MOA美術館所蔵の八十四行分が重要文化財に指定されている。
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MIHO MUSEUM