赤井谷地沼野植物群落
あかいやちしょうやしょくぶつぐんらく
概要
天然紀念物調査報告(植物之部)第八輯 一六頁 参照
猪苗代湖辺ノ沼野ニ発生スル特殊ノ植物群落ニシテ北方寒地ノ種類ニヨリテ代表セラレ著シキ景顴ヲ呈ス
赤井谷地沼野植物群落は猪苗代湖の西岸北端から西へ約1kmに位置し、標高525m前後である。赤井谷地は、標高は低いもののツルコケモモ、ホロムイイチゴなどの北方系の植物が多く見られること、中央部が高まったドーム状の泥炭層の下に湖成層が見られる陸化型の高層湿原であること、ドームの中央部、周縁部、低地部という微地形に対応した3型の植生が認められること、泥炭層に典型的な発達パターンが認められることなど、学術的価値が高いことから昭和3年に天然記念物に指定された。
指定地の植生としては、泥炭ドームの中央付近の高まった部分では高層湿原特有のムラサキミズゴケ、イボミズゴケが優占するミズゴケ湿原植生、ドームの周縁部ではヌマガヤを中心とする湿原植生が、ドーム辺縁の低地部にはヨシやハンノキによる湿地植生が発達している。このような多様性の高い湿原であるが、これまでのさまざまな人為による影響により、乾燥化や非湿原植物の侵入等により存続の危機に瀕してきた。
17世紀中葉に赤井谷地の北西にある強清水での開田に伴い、湿原の南東部を流れる赤井川から水を確保するため、赤井谷地の低地部に新四郎堀の掘削が行われた。天然記念物指定に際しても、開墾や採草地としての利用の希望があり、利用との調整が必要となった。指定後にもミズゴケや泥炭採取等のため、指定地の一部解除の要望がしばしば行われた。赤井谷地周辺の水田開発により、湿原を涵養していた地下水が水田や水路へ漏水し、湿原の乾燥化が懸念されるようになった。しかし、周辺地区の圃場整備が行われることになり、その際に赤井谷地からの漏水防止工事等を行うこととなり、湿原本体部分の保護と周辺部分の湿地復元が可能となった。
今回の追加指定地は、既指定地の周囲にあり農地として利用されてきた地域と指定地内の湿原と同様の植生を持つ地域である。これらの多くがこれまで利用されてきたものの、本来は赤井谷地と一体の湿原であった地域であり、既指定地の貴重な高層湿原を保全するために不可欠な地域である。
このような指定地に隣接した地域で、もともと同じ湿地であり、既指定地保護に必要な地域であることから、追加指定を行い既指定地を含めた湿原植生全体の保全を図るものである。