簾中抄
れんちゅうしょう
概要
『簾中抄』は平安時代院政期末の歌人藤原資隆が八条院暲子内親王のために著した故実書である。内容は宮廷の年中行事、天皇・皇族や百官の人名・職名から歴史・文芸事項までを記した簡易百科で、女性用に平仮名を主体に書かれている。
冷泉家本はその現存最古本として新出のものである。体裁は綴葉装、共紙の焦茶表紙中央に「簾中抄」と外題がある。料紙は楮紙を打紙して用い、巻頭に「年中行事」以下、標目三十三項を九行三段に掲げる。本文は半葉九行、内題および小項目から一字下げに説明文を記す。文体は真名交り仮名文で、まま同筆の校合訂正がみえ、文中には人名・名所などに鎌倉時代後期頃の墨傍訓、一部に声点や朱の校合注記等がみえる。
冷泉家本は上下巻を一帖とし、首尾題はない。前段(上巻)部分には「年中行事」についで、神代から第八十六代四条院までの「帝王御次第」を収める。ついで四丁分の白紙をおいて、下段(下巻)部分の頭に追号天皇を書上げ、「年号」以下「所々長吏別當」までの三十一項目を収める。巻末は延暦寺座主「円基」までで、裏表紙部分の大半を欠いている。
本書を改定史籍集覧本などと比較すると、掲出、記述にも相違がみえ、とくにこの本が帝王を四条院、摂関を右大臣良実までで収めている点は古態を存して注目される。また年号の「文永」までが一筆で、「寛元四年」の注記に「当今」(後深草)とみえることは、本書の親本が寛元年間(一二四三~四六)を降るものではなく、本書の書写が文永初年(一二六四~)であることを示している。また本書の巻末に他本にない「所々長吏別當」の記載がみえることは、本書の伝来と併せ注目されよう。
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