大鏡〈巻第二、五、七/〉
おおかがみ
概要
『大鏡』は『栄華物語』につぐ歴史物語で、藤原道長の栄華を称え、文徳天皇の嘉祥三年(八五〇)から後一条天皇の万寿二年(一〇二五)に至る歴史を問答体と紀伝体で劇的に構成した作品である。『大鏡』の成立は万寿二年以降とする説が有力であったが、その多くが作者論とかかわっており、近年では十二世紀初期の成立とみる説が優勢である。
現在する『大鏡』諸本は、(一)古本系、(二)流布本系、(三)異本系に大別される。近時新出になる冷泉家本は、八巻中の巻第二、五、七の三巻分を存するのみだが、異本系の現在最古写本と認められるものである。体裁は綴葉装で、いずれも共紙表紙左肩に「代系『幾』」との別筆外題がある。料紙は楮紙を打紙して用い、本文は真名交り文で、四字程度の連綿体を交えた温和な書風をもって、半葉一一行、一行二一字前後に書写し、所収歌はおよそ一字下げに二行書としている。筆跡は各冊で異なるが、書出ごとに「一、太政大臣為光」のように人名項目を掲げて尻付があり、文中の真名には墨傍訓が稠密に付されているほか、行間には勘物注記などがみえている。奥書等はないが、体裁筆跡等からみて鎌倉時代中期を降らぬ古写本と認められる。
各巻の構成は、巻第二が左大臣冬嗣条から太政大臣実頼条に至る本文を完存する。巻第五は太政大臣兼通から内大臣道隆条の途中までを存し、以下、右大臣道兼条末に至るおよそ一括分を欠失している。巻第七は「藤原氏物語」の「一、太政大臣道長のおとゝハ」から「昔物語」の「いますこし留事ともはきかせ給てまし」までの一巻分を完存する。
冷泉家本を他本と比較すると、その巻立ての構成は、異本系萩野文庫本(九州大学図書館蔵、八巻三冊)、披雲閣本(旧高松松平家蔵、八巻四冊)と完全に一致し、本文もおおむねこの系統とみなされる。しかし、語句の異同等は著しいものがあり、巻第七本文に限定すれば、本書は古本系の池田本(重文「道長雑々物語」、天理図書館蔵)に最も近いことが知られる。ただし、本書は池田本ほど傍注は多くないという特徴がある。
本書は「昔物語」中におよそ一丁分の脱文があるが、異本系でありながら、萩野本等よりは記事も簡明なところが多く、むしろ巻第二を中心に本文全体としては古本系の東松本(重文、東松みさ子蔵)と一致する箇所も少なくない。これらの事実は本書が古本系の姿をもとに独自に本文を増やしつつあった異本系の早期の姿を示すものとして注目され、巻第七とほぼ本文の一致する池田本の位置づけを含め、異本系大鏡の成立過程を考えるうえにも価値が高い新出本である。
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