万葉集巻第十八(金沢文庫本)
まんようしゅうまきだいじゅうはち
概要
『万葉集』は奈良時代に編集された最古の歌集で、仁徳天皇の詠歌より天平宝字三年(七五九)に至る長歌、短歌、旋頭歌など四五〇〇余首を収録し、二〇巻からなる。
本書は、近時冷泉家時雨亭文庫にて発見されたもので、古筆上に「金沢文庫本万葉集」と称されるものにあたるが、冷泉家に帰した経緯は明らかではない。
本書の体裁は、綴葉装冊子本で縦三三・五センチメートル、横二五・六センチメートルの大型冊子本である。藍地染紙の後補表紙を付し、題簽に「萬葉集巻第十八」と墨書する。料紙には上質の楮紙打紙を用い、金泥の匡郭を施し、半葉八行、およそ一七字に正楷な真名【まな】で書写され、首・尾題に「萬葉集巻第十八」と記す完本である。
一丁(表)から五丁(表)に「田邊福麿四首」より「大伴家持一首」までの標目を記し、六丁(表)から四〇三二番「奈呉乃宇美【なこのうみ】」より四一三八番「夜夫奈美能【やふなみの】」に至る短歌九七首、長歌一〇首、計一〇七首を収める。題詞は歌より二、三字低く書き、真名書の右脇には、墨、青、朱の三種の訓点を記す。この三種の訓点は、仙覚(一二〇三~寂年未詳)の校勘にかかる「文永三年本」(新点本)を踏襲しており、墨書は古点、次点、青書は仙覚による古点、次点の改訓、朱書は仙覚による新点を示している。また、「尊圓親王筆」と墨書した付箋があり、他の「金沢文庫本」と同様に青蓮院門跡尊円(一二九八~一三五六)の筆と伝えられる。書写奥書はなく、その書風よりみて鎌倉時代中期の写本と認められるものの、尊円筆とは断定できない。
「金沢文庫本万葉集」の現存の諸巻は、巻第一・九・十九の巻子本、巻第七・十二~十四の断簡が知られるが、本書は本来の綴葉装冊子本の姿を今に伝える唯一の古写本としてきわめて貴重であり、また新出の写本として『万葉集』研究上にも価値が高い。
所蔵館のウェブサイトで見る
国指定文化財等データベース(文化庁)