和漢朗詠集断簡 久松切「蝉」
わかんろうえいしゅうだんかん ひさまつぎれ せみ
概要
藍と紫の飛雲を漉き込み、金銀の砂子を撒いた料紙に、『和漢朗詠集』巻上の「蝉」の漢詩と和歌を書写した断簡。もとは巻子本で、巻上は切断され、諸家に分蔵されたが、巻下は完本のまま、出光美術館に所蔵される。切名は、伊予松山藩主の久松松平家に伝来したことにちなむ。
ゆっくりとした筆運びで温厚な雰囲気であり、世尊寺流の書風の特徴が見えるが、伝承筆者の藤原行成の筆とは異なる。料紙の特徴と書風から、12世紀初めの書写と考えられる。本文5行目「鳥下緑蕪秦苑寂蝉鳴黄葉漢宮秋〈許渾〉」は、原書写者が欠脱したため、のちに別の人物が淡墨で補記している。この補記の文字は原書写の文字に似せて記している。