家畜の群れ
かちくのむれ
概要
陶磁器の町セーヴルで磁器職人の子に生まれたトロワイヨンは、最初は絵付職人として磁器工場で働いていたが、その後画家を志し独学で絵を学び、さらに風景画家としての基本を友人の画家ジュール・デュプレとナルシス・ディアズに教わった。1840年代のはじめ、パリ近郊フォンテーヌブローの森で制作していたトロワイヨンは、やがてバルビゾンでテオドール・ルソーやポール・ユエらとも交友を結ぶようになり、バルビゾンの画家たちの絵画観に共鳴してゆく。風景画家として実力を磨くなか、1847年、オランダでの1年間にわたる滞在は、彼の絵画の方向性を決定する重要な転機となった。トロワイヨンはオランダの画家パウルス・ポッテルやアルベルト・カイプの作品に触れ、大きな感化を受け、以後「動物画」の世界に独自の画境を拓いてゆくようになる。帰国後、彼は風景の中に家畜、特に牛の群れや牛のいる風景を主に描き、動物画家としての地歩を固めた。本作には風景画家と動物画家の両方の特徴がよく出ている。地平線の高さを画面のほぼ中央に定め、画家は眼の高さをそれと同じにして画架を立てている。近景の牛の群れを主役に大きく扱い、遠近法の消失点をその向こうの人物付近に置いて、画面の中央の彼方へと視線が届くような構図となっている。先頭の牛二頭が左方向を向いているのは、畜舎がそちらの方にあるのか、また牛の姿を斜め横から美しく描くためにそうしたのか、画面からは定かではない。午後の放牧から帰る牛や羊の群れに、夕暮れの抒情を託して描いた動物画家の典型的な小品のひとつである。
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