風景・丁字路
ふうけい・ていじろ
概要
東京美術学校在学中の明治42年に、よ志夫人と結婚した萬は、小石川区宮下町(現在の文京区千石)に新居を構えてここから学校へ通ったが、彼の通学路であった上野の西北の方向に広がる地域は、幾つかの大地が舌状に張り出し、現在でも起伏に富んでいる。牧歌的な情景にガス灯や高い塀が描きこまれた本作は、彼にとってごく親しい、この東京の風景を題材とするものであり、画面右下に配された荷車引きの姿によって、坂道の存在が強調されるとともに、ユーモラスな味わいが醸し出されている。萬は、フォーヴィスムやキュビスムなどの西洋の新しい絵画思潮の日本への導入者として語られることが多いが、東京美術学校西洋画科にトップの成績で入学した彼は、画家としての本来的才能にも恵まれていた。本作の精緻な筆触は、油彩を自在に駆使することのできた彼の傑出した技量を存分に示すものであり、とりわけ様々な色彩が重ね合わされた空の部分のマチエールが絶妙である。