万之瀬川河口域のハマボウ群落及び干潟生物群集
まのせがわかこういきのはまぼうぐんらくおよびひがたせいぶつぐんしゅう
概要
指定予定地は万之瀬川河口から約1.5km上流の左岸、準用河川荒田川が万之瀬川に注ぐ合流地点から万之瀬川左岸沿いに約1km上流まで、幅約100mの範囲である。万之瀬川は南さつま市北部に位置する薩摩半島最大の河川で、鹿児島市の山地に源を発し、東シナ海の吹上浜海岸に至る二級河川である。延長は36kmと短いものの流域は薩摩半島南部に広がり、流域面積は381k平方メートルとなっている。河口域では川幅が400mほどにもなり、南九州で最大規模の河口干潟が発達している。
指定予定地周辺から上流にかけては泥質や砂泥質の干潟がよく発達している。万之瀬川左岸沿いにある石積護岸付近の泥質干潟を中心に、ハマボウが1km以上にわたり1000株以上が生育し、日本最大規模の群落を形成している。中州近くの砂泥質の干潟付近では疎らになり、アイアシやナガミノオニシバなどからなる塩沼地植生が広がり、砂質の部分ではハマゴウやコウボウムギなどの砂丘植生も発達している。
ハマボウはアオイ科に属する落葉低木で、樹高2〜5mに達し地際から屈曲した幹を多く出して大きな株をつくる。7月前後に直径5cmほどの黄色い美しい花を咲かせるが、一日花で朝に咲いて夜にはしぼんでしまう。分布は関東南部(三浦半島)以西の本州西部、四国、九州で、本州では太平洋側が中心となり、日本海側では山口県が北限となる。九州には広く分布しており、南限は奄美大島となっている。奄美大島以南から沖縄にかけては近縁種で常緑のオオハマボウが分布している。かつては北限に近い静岡県や三重県、和歌山県などの本州にも大きな群落が発達していたものの、護岸工事や埋立などにより生育地が失われ、近年では絶滅が危惧される群落の一つに挙げられている。
さらにハマボウ群落周辺の干潟には、日本最大規模の生息地として知られるハクセンシオマネキをはじめとして、コメツキガ二、チゴガニなどのカニ類が群生し、河口付近では自然分布のハマグリの南限個体群、イソシジミ、ソトオリガイ、ハザクラガイ、ヤマトシジミなどの二枚貝も多く、地元の人々の漁獲対象となっているものも多い。これらの二枚貝の殻中にはフタハピンノという小型のカニが共生しており、フタハピンノの数少ない健在産地となっている。それ以外にも、多毛類・貧毛類などの環形動物、紐形動物、腹足類、甲殻類など多くの干潟生物が生息している。これらの干潟動物を餌として、渡り鳥をはじめとした鳥類の重要な生息地にもなっている。クロツラヘラサギなどの希少種を含めこれまでに130種以上の野鳥が確認されている。
対象地はハマボウ群落が群生する地域ほぼ全域を含んでいる。万之瀬川河口の干潟地域の中では、底質が泥質から砂質までにわたり、塩沼地植生、砂丘植生を含み、多くの干潟動物が生息している、動植物の多様性が高い地域である。
このように、最大規模のハマボウ群落やハクセンシオマネキ群集が発達し、多様な干潟生物が成育する地域として学術的価値が高いことから、天然記念物として指定し保護を図ろうとするものである。