山水図
概要
小学生のころ、美術の時間に「夢の世界」や「あなたの住んでみたい町」などを描いた記憶がある。その時分は次から次へとアイデアがわいて、楽しく描くことができた。それでは、この課題が今出されたらどうだろう。硬直した頭しか持ち合わせなくなった現在では、悲しいかな筆が思うように動かないのは明らかだ。夢を描けなくなった自分には、夢のある芸術作品で活力を補うしかない。さて、この月僊の山水図は、もちろん実写ではなく想像の世界だ。人里遠くはなれた山の尾根づたいの途上に、高士たちの姿が見える。後ろに付き人と犬が楽しそうに同じ方向へとむかっている。画面いっぱいに自然を大きくとらえ、人物があまりにも小さいので残念ながら作品実物を見ていただかなくては判別できない。月僊の画風は、曾我蕭白のような強烈な個性も、雪舟や長谷川等伯のような厳格な雰囲気もない。ただ、それゆえ鑑賞するわれわれは、穏やかな気持ちで画中に入り込み、仙人たちと戯れることができる。(田中善明)