東方朔図
概要
画面右方から枝を伸ばす桃の木と、あたりを見回しながらその大きな桃の実に手をかける男性がひとり。周りの様子をうかがいながら、差し足で桃に近づき、不自然に体勢を低く保つ男性の様子から、桃を盗んでいるのだと気付く。この絵の主役、つまり桃を盗んでいる人物は、東方朔といわれる中国の仙人である。西王母の桃を盗んで食べ、八百歳もの長寿を得ることができたとして知られるこの仙人は、おめでたい画題としてしばしば描かれる。この作品では、背を丸めた人物の身体と桃の枝が絶妙のバランスで配されているが、緊張感のある画面構成によって、桃の実を盗むという場面の緊迫感をよりいっそう高めているといえる。さて、構図とともに注目すべき特徴は、西洋風の表現を用いているという点であろう。東方朔の顔や手には陰影がほどこされ、桃は、葉の表と裏の色が使いわけられるなど写実的に描かれている。月僊はその人気ゆえに乱作におちいるが、本作品は、細部まで丁寧に描かれ、なおかつ月僊の洋風画への興味があらわれた貴重な作品である。(佐藤美貴)