遠山五匹馬図真形釜
とうやまごひきうまずしんなりがま
概要
これは茶道(さどう)で使われる、湯を沸かす鉄製の釜です。現在は胴部の下が割れたような形をしていますが、もともとはそのあたりに、帽子の「つば」のような出っ張りがぐるりと回っており、さらに底へと続いていました。今われわれが見ている底は、のちの時代に補われたものです。二か所には獣の顔をかたどった突起があり、持ち上げるためのリングを通す穴が開いています。胴部にはしなやかに駆(か)け、あるいは草を食(は)み、戯(たわむ)れる5匹の馬の自由で生き生きとした姿が、わずかに盛り上がった線や面によって、巧みに描き表されています。線の部分は、鋳型では逆にくぼんでいます。作者が鋳型に絶妙なタッチで線を彫り込んだからこそ、こうしたのびやかで抑揚のある線に仕上がったのでしょう。
この作品は、釜の形式や、胴部全体に絵画的な文様を表すことから、現在の福岡県北部の芦屋(あしや)地方で作られた茶釜と考えられています。芦屋地方で作られた茶釜は、当時一級のブランド品として好まれました。この地域ではもともと、金属を熱して溶かし、鋳型(いがた)に流し込み形を作る、鋳造(ちゅうぞう)の技法で、さまざまな道具を作ってきた歴史があり、優れた製品を作る技術が発達していたのです。