還城楽図額
げんじょうらくずがく
概要
舞楽(ぶがく)は1,000年以上の歴史を有する日本古来の伝統的な舞踊劇です。古式ゆかしい楽器の演奏に合わせ、衣装や面をつけた舞人(ぶじん)が舞い踊ります。「還城楽」(げんじょうらく)は舞楽の演目のひとつで、怪奇な面をつけた舞人が蛇を前に勇壮に舞います。一説には西域(さいいき)の異人が好物の蛇を見つけて喜ぶ様子をあらわしたものともいわれています。
この額は、その還城楽の場面をきわめて写実的にあらわしたものですが、驚くことにその素材はすべて金属です。金・銀・銅やそれらの合金など、色合いの異なる金属を使い分け、細やかな彫刻を施したものを、鉄の板に象嵌しています。こうした素材や技法は、もともと刀剣の譚(つば)鍔などの刀剣装飾具、煙管(きせる)や印籠(いんろう)といった生活道具など、比較的小さな実用品の装飾に使われていました。それが実用を離れた、鑑賞物としての額に発揮されている点が、当時の美術工芸界における新しい考え方の高まりを物語っています。
画面向かって右下には、作者である海野勝珉(うんのしょうみん)の名と明治26年、西暦1893年を意味する年記が刻まれています。この年行われたアメリカのシカゴ・コロンブス万国博覧会に出品された作品です。海野勝珉は、多様な素材の金属を用いて精緻な彫刻を施す彫金(ちょうきん)を得意とした金工家です。国内外の博覧会や展覧会に出品した作品は高い評価を得ています。現在の東京藝術大学の前身である東京美術学校の教授や、国が選定する優れた芸術家である「帝室技芸員」にも選ばれ、後進の育成にも努めました。