和歌体十種
わかたいじっしゅ
概要
和歌体十種は壬生忠岑(みぶのただみね)が著したと伝えられる歌論書です。壬生忠岑は、『古今和歌集』の撰者の一人で、三十六歌仙にも数えられる平安中期の歌人です。
内容は、中国の詩の分類法にならって和歌を古歌体(こかたい)、神妙体(しんみょうたい)など十種類に分類し、それぞれ5首ずつの例歌と、短い漢文の説明文をつけたものです。この作品が、現在残されているもののうち最も古い写本です。
まずは、紙にご注目ください。藍と紫の雲のような模様「飛雲」(とびくも)を漉(す)き込(こ)んだ料紙を使っています。このような紙が作られたのは、11世紀半ばから12世紀初頭に限られるので、この作品も平安時代にさかのぼるものと考えられます。
巻末に、古筆の鑑定を専門とする古筆家(こひつけ)の祖である古筆了佐(こひつりょうさ)(1572~1662)によって、筆者は藤原忠家(ふじわらのただいえ)であると書かれています。ほんとうに藤原忠家が書いたかどうか確証はありませんが、流麗な漢字と仮名の調和が見事です。
掛軸装の断簡は、もとは巻き物の一部だったもの。料紙の色が少し濃くなっていて、さまざまな席で披露され鑑賞されたことが想像されます。