田植取入漆絵折敷
たうえとりいれうるしえおしき
概要
これは折敷(おしき)といい、縁がぐるりと立ち上がった四角いお盆で、食器などを載せて使います。本来は5枚揃いだったようで、それぞれ違うデザインだったのでしょう。
折敷そのものは木でつくられており、そこに漆の木の樹液を使った下地をほどこし、表面には明るい緑色の漆を塗っています。そこにさまざまな色の顔料をまぜた彩漆(いろうるし)で、絵をかくのです。これを漆絵(うるしえ)といいますが、この作品は、漆絵のほかに、一種の油絵の技法も使われているため、いっそう色あざやかに仕上がっています。
何が描かれているか、見てみましょう。頭に荷物を載せ、裸の子どもを連れた女性が、牛のそばを通りすぎています。遠景では、笠をかぶった女性たちがかがみこんで、田植えをしているようです。もう一方、刈り取った稲を背中に積んだ牛や、稲の束を干している脇では、堅杵(たてぎね)で脱穀をしている人たちがいて、こちらは収穫の季節のようです。どちらも、作業をしながらの話し声まで聞こえてきそうです。鮮やかな色づかいで、農作業をする庶民の飾らぬ自然な暮らしを描いています。
これは江戸時代、18世紀に作られたものですが、この頃の漆の器は、作り手も、使う人もぐっと幅が広がりました。一部の人びとのための高級な品ばかりでなく、この折敷のように庶民層に向けた楽しく、あざやかな印象のものも増えました。