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老猿〈高村光雲作 明治二十六年/木造〉

概要

老猿〈高村光雲作 明治二十六年/木造〉

彫刻 / 明治 / 大正 / 昭和以降 / 関東 / 東京都

高村光雲

東京都

近代/1893

1躯

東京国立博物館 東京都台東区上野公園13-9

重文指定年月日:19990607
国宝指定年月日:
登録年月日:

独立行政法人国立文化財機構

国宝・重要文化財(美術品)

 全身が長毛におおわれた老猿である。右斜め上方を睨み、上体を捻って右前に倒し、左手は斜め右前に伸ばして数本の鷲の羽根(五本)を掴み、右手は臂を引いて岩角を掴み、左足を曲げ、踏み下げる右足の脛を掴んで岩上に座る。
 本体から岩までを含めてトチの一材(木心は像前方に外れる)から丸彫りし、表面は素地仕上げにし、眼には黒色鉱物を嵌め込む。
 背面岩座に明治二十六年(一八九三)に高村光雲が造った旨の刻銘がある。高村光雲は、嘉永五年(一八五二)江戸浅草に生まれ、一二歳で仏師高村東雲の門に入り、伝統的木彫の技法を学んだが、写実的西洋画等からいち早く写生の法を取り入れ、それまでの伝統手法の上に立ちながら、新しい境地を拓くことに努めた。彼の代表作としては老猿のほかに、楠木正成像・西郷隆盛像などの銅像、倭鶏・狆等の小品等があり、晩年のものとしては信濃・善光寺の仁王像等がある。
 本像は逃げ去った鷲の尾羽を掴んで空の一角を睨み上げる老猿の姿を、トチの大木から丸彫りする。光雲の口述を記録した『光雲懐古談』によれば自ら材質の選定をするため栃木の山奥をまわってトチの大木を探し求め、しかもモデルとなる猿も浅草奥山の猿茶屋で飼っていた猿を借りてきたという。白い木肌の細かく揺れる木目の感じを毛並みに活かし、凹凸の著しい奇岩の上に腰をおろした猿を精緻に彫り上げる。しかも気迫のこもった眼差しで右上方の一点を凝視するという、綿密な観察に基づく迫真的な表現を写実的に表したもので、熟練した彫技に基づく動物描写もさることながら、精神の緊張を表現する堂々たる巨作である。
 本像は、明治二十六年にシカゴで行われた第三回万国博覧会の出品作品であるが、この万博はそれまで沈滞していた当時の彫刻界にとって、その真価を海外に問うたもので、石川光明「観音菩薩倚像」や竹内久一「伎芸天像」、山田鬼斎「平治物語図額」など、近代木彫史を代表する作品が出品されている。なかでも本像は優等の賞をとり、内外の好評を博したものであり、当時象牙彫刻全盛期のわが国の彫刻界にあって、その後の明治前半期における日本の伝統的木彫の進路を方向づけた優品と推賞できよう。

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