華厳経(二月堂焼経)
けごんきょう(にかつどうやけぎょう)
概要
寛文7年(1667)2月14日、東大寺二月堂が修二会(お水取り)の期間中に焼失した折りに、焼け跡の灰の中から発見された『華厳経』(六十巻本)。紺紙に銀泥で界線を施し、銀泥で経文を書写している。料紙に焼損があることから「二月堂焼経」と呼ばれて世に名高い。
「二月堂焼経」は、修二会の内の実忠忌(旧暦2月5日)に用いられたものと考えられており、現存する奈良時代唯一の紺紙銀字経である。通常、銀は酸化して黒く変色するが、この銀字は書写された当初そのままのように白く輝き、比類のない清澄な美しさを感じさせる。文字も謹厳整斉でゆるみがなく、奈良時代中期のすぐれた写経生の手になるものであろう。
当館が所蔵するのは、巻第五が5紙、巻第六が2紙、巻第二十一が9紙、巻第二十三が1紙のあわせて17紙。現在はこれを2巻(甲・乙)に仕立てている。上部には焼損がなく、下部の焼損も界線には及んでいない。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.301, no.105.