法華経 巻第一
ほけきょう かんだい1
概要
奈良時代には滅罪護国の経典として尊重された『法華経』は、写経による功徳や女人成仏・悪人成仏などを説いており、平安時代に入ると、『法華経』を根本聖典とする天台宗の興隆に伴って、その信仰は著しく高揚した。そして法華八講などの行事が貴族社会で盛んになると、様々な装飾法華経が制作されるようになった。装飾方法には、文字の装飾(金字・一字宝塔・一字蓮台など)、見返しの装飾(見返絵)、料紙の装飾(下絵・染紙・色紙・金銀箔散らしなど)、経巻全体の装飾など様々な例がある。
これは、天地界の欄外に金銀泥で愛らしい鳥・蝶・草・樹木などを描いた『法華経』の巻第一である。界線は銀泥。経文には読み仮名や送り仮名が詳しく付けられており、国語学の資料としても注目される。この1巻のほかに、巻第六に含まれる「随喜功徳品」と「法師功徳品」の断簡(前者は写経手鑑「紫の水」の内)の存在が知られている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.303, no.117.