饕餮文斝
とうてつもんか
概要
長大な三脚を持つ大形の斝である。これも河南省安陽市候家荘殷墓から出土した器物の一つで、「亞■」銘が内底にある。「亞」形は商王朝の王墓の形をあらわし、「■」形は君側の小臣を示すという解釈があり、この銘は商王朝に付属した部族の標識とみなされている。斝は酒を温めるための器で、総体に蕉葉夔文、饕餮文、蛇文などが力強く彫りだされている。
殷周彝器は漢時代にはすでに地中から発見され、それを賞翫する者があったことが知られるが、宋時代の徽宗の殷周彝器コレクションは『宣和博古図録』に893器が収録され、この図録のなかで、器の文様に饕餮、蟠螭等の名称が与えられ、以来こうした文様の名称が踏襲されてきたのである。饕餮文とは怪獣の正面の姿を文様としたもので、巨大な眼と角があり、口は鼻の両側に広がり、牙や歯もあらわされている。これらは悪霊を折伏する僻邪の力をもち、なかに容れる神への供物である食物や飲物を悪霊から守護する呪術的意味をもつものとされていた。林已奈夫氏は饕餮を図像学的分析から「上帝」そのものとみなしている。
この斝は殷墟婦好墓出土の婦好斝に似ていることから、安陽第二期頃(前14〜前11世紀)の作と見られるものである。
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