大角氏庭園
おおすみしていえん
概要
大角氏庭園は,江戸時代初期の頃から製薬・販売で知られた商家で,東海道草津・石部の間の宿をも兼ねた大角家の庭園である。本家は店舗を主とする主屋と書院からなり,主屋は貞享から元禄初年頃の普請になると考えられていて,書院も主屋の建立からそう遅くない時期に建築されたものと考えられる。庭園はこの書院から見る位置に主たる景を置いて造られていて,書院と合わせて築造されたことを伺わせる。
庭園は500m2程(南北約20m)でさして広くはないが,書院上段ノ間前面に池を掘り,その先南側に急勾配の築山(高さ4m余)を築き,築山尾根線を南にやや下ったところで混植刈込生垣と西は旧葉山川の堤防によって庭景を限っている。この庭園の主たる景として,築山の西寄り斜面鞍部の尾根線近くから枯滝を組み下し池の南西部に流れ落ちる勢いを見せている。この景は上段ノ間の床前に座し附書院障子窓を開けて庭を見たときの正面池越しに見ることができる。今ひとつの景は上段ノ間北次の間の西に接する小座敷床前から見るもので,池越し築山中腹に据えられた品字風の石組と中腹稜線に建てられた三重宝篋印塔を見る景である。
庭園の前景をなす池には東寄りに花崗岩製切石反橋が架けられ,池中には本来数個の岩島のみであったが,明治になって大きな中島が設けられた。池と書院の間には飛石園路が打たれている。上段ノ間西側の縁沿いには不整形自然石・大振り鉢型の手水鉢が据えられ,西隣主屋前にも笠灯籠と細型棗手水鉢が据えられている。書院主人側から東南端に日向山がみえる。
植栽としては,枯滝附近にマキ・モミジを植え,滝左手中腹と右手裾部にアカマツの高木植栽を施す。池の書院寄りにはウメを植え鑑賞の要とする。
本庭園は,江戸時代前期末頃の商家の書院から鑑賞する庭園として伝えられた貴重な庭園で,名勝に指定してその保護を図ろうとするものである。