金銅五鈷杵
こんどうごこしょ
概要
把(つか)中央の鬼目(きもく)は二重圏を有する楕円形で、僅かではあるが隆起を保っている。蓮弁帯は間弁付き八葉弁を2本の素文帯で約している。弁は輪郭を二重とし、弁中央の縦に浅く稜線を表している。脇鈷(わきこ)は嘴形(くちばしがた)を表し、稜線に樋(ひ)を陰刻している。一方の中鈷のつけ根に埋金が認められるが、類例より舎利孔(しゃりこう)かと推定される。全体に均整がとれ、丁寧な仕上げがなされているが、鈷(こ)、把(つか)とも大人しい造形であり、製作は鎌倉時代後期から南北朝時代に推定することができる。『陀羅尼集経(だらにじっきょう)』巻二「仏説跋折羅功徳法相品」によれば、舎利を籠めた金剛杵(こんごうしょ)は護法の霊力を増すといい、わが国密教法具の範として後世に大きな影響を与えた空海(くうかい)請来の法具類の多くにも舎利が籠められていた。空海は『御請来目録(ごしょうらいもくろく)』の中で、これらの法具は受持、頂戴すれば福利極まりなく、諸魔と煩悩(ぼんのう)を調伏(ちょうぶく)する力が宿っていると記している。本品は空海以来の密教法具の本義に則った作品と言うことができるだろう。
古玩逍遥 服部和彦氏寄贈 仏教工芸. 奈良国立博物館, 2007, p.37, no.19.