紙本著色辟邪絵
概要
現在は五点の掛幅となっているが、もとはこれだけで一巻をなす絵巻であり、地獄草紙の一本とされていた。しかし内容は、地獄に堕ちた罪人たちの責苦ではなく、むしろ人間を害する疫鬼や鬼神を懲らしめ追払うとして中国で信仰された辟邪神を集めたものであり、天刑星・栴檀乾闥婆・神虫・鍾馗・毘沙門天の各神が、疫鬼共を傷つけあるいは食らうという凄惨な場面が一貫して描かれる。図様はいずれも中国から伝わったと考えられるが、天刑星と神虫は本図においてのみその像が知られるなど、内容は極めて特異性に富むといえよう。辟邪神の扱い方は、像を画面一杯に表すものや、説話的構成の中に組み込むものなど、各図の間で若干の相違が認められるものの、表現は明快な配色や勁直な描線によって全体にいきいきとしており、強い隈取りや神虫の体躯の重い色調などは特異で迫力がある。
本図は国宝の「地獄草紙」・「餓鬼草紙」・「病草紙」などと共に六道絵を構成すべく製作されたという説があり、その点については今後も研究されねばならないが、少なくともそれらと同時期、平安時代末から鎌倉時代初め頃の製作と考えられ、卓抜な表現はそれらと較べても高く評価されるものである。
益田家伝来、中沢家旧蔵。