牧牛図
4面(旧永島家襖絵)
概要
蕭白が明和町の永島家に描いた襖絵の一部。軸装となった現在でも引手あとがはっきりとうかがえ、本図が元来襖絵であったことを示している。永島家に遺る口伝は、「襖ノ内十二枚ハ仮表装シ往方未タ文展、院展等ノ催シナク東京上野ニ於テ年々美術協会ノ展覧会ヲ開催セラレシ頃一度参考品トシテ出品陳列セラレタルコトアリ(略)」と述べているから、明治の後半頃に軸装に仕立てられたものであろうか。
さて、画面右上に「蛇足軒蕭白酔指画」と記されており、《牧牛図》は旧永島家襖絵中、唯一の指頭画である。指頭画とは、指や爪を用いて描く水墨画の一技法。唐にはじまり清時代に盛んにおこなわれている。日本では、池大雅など南画家が得意とした。意外にも蕭白の指頭画は少なく、特に、本図のように襖4面もの大画面に描かれた指頭画は例がない。旧永島家襖絵は、その規模の大きさ、山水・花鳥・人物と画題が多岐にわたる点などから高い評価を得ているが、指頭画をも含む墨使いの多様さも大きな魅力のひとつといえるだろう。
木の上に登り、器用に全身でバランスをとる童子は、ゆったりと伏せた牛よりさらに遠くにいる犬のような小さな動物になにか語りかけているようにみえる。この童子と牛は、大岡春トの『画巧潜覧』に原型を求めることができるのだが、左端に配された犬のような小さな動物については明らかでない。モチーフの特定が困難なだけでなく、実は、本図がどの部屋に配されていたか、ということも不明である。しかし、いずれにしても、酔った勢いで、指で描いた墺であるということを考慮すると、《牧牛図》は、格式の高い部屋に置かれていたとは考え難く、下段の間に描かれた可能性が高いといえよう。我々が蕭白作品につい期待してしまう類の迫力には欠けるが、童子の姿態や、牛の量感、樹木の表現等に蕭白の巧さが光る魅力的な作品である。(佐藤美貴)