冨嶽三十六景・御厩川岸より両国橋夕陽見
ふがくさんじゅうろっけい おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ
概要
これは、江戸時代の後半に、浮世絵師の葛飾北斎が描いた木版画です。富士山をテーマとした46枚シリーズの一枚です。タイトルは「冨嶽三十六景」なのに46枚あるのは、人気が高く当初の予定から10枚増えたためです。
ここは将軍の厩(うまや)があったことから、御厩川岸(おんまやがし)と呼ばれる、現在の東京、墨田川。そこから対岸を結ぶ渡し舟が、両国橋をバックに描かれています。画面中央に小さく見える富士山も、対岸の景色や橋も、色味を抑えてほとんどシルエットのようにあらわされています。陽が落ちて、だんだんと風景から色が失われていく時間です。空の黒いグラデーションや、濃い青であらわされた水から、もう夜に近い時間であることがわかります。
舟の人びとを描く輪郭線にも青が使われています。彼らの多くは俯いたり、こちらに背中を向けています。あまり顔が見えないからか、むしろ彼らの視線の先の風景を、私たちも一緒に見ているような効果があるようです。タイトルには「夕陽見」とありますが、色づく夕焼けが終わった後、人びとが青のモノクロームの世界に浸っている静かな時間帯を描いているのでしょうか。
この作品をはじめ、「冨嶽三十六景」シリーズの最初の頃には、「ベルリン・ブルー」と呼ばれた青い顔料が多く使われています。この時代にヨーロッパから日本に入ってきたもので、北斎の新しいものへの関心の高さが見てとれます。