歩く人
あるくひと
概要
《青銅時代》に続く等身大彫刻《説教する洗礼者ヨハネ》(1878年)では、左脚から右脚へと推移する時間の表現が試みられた。1900年の大回顧展に際し、ロダンはヨハネのための習作を組み合わせてこの《歩く人》を制作した。用いられたトルソと両脚はもともと別個に造られたもので、荒々しい肉付けのトルソは背中などに大きな欠損もあり、一方両脚は写実的に細心の肉付けで仕上げられている。接合部は滑らかにされず、臀部の肉も足りないが、トルソという形式の採用によって、時間と運動というテーマが純粋に高められている。また、両足の踵を地に着けたまま前進する動きを強調するため左脚が長く造られており、右脚も当初の予定より大きく前に踏み出されて、踵の後に心棒がのぞいている。ロダンのさまざまな試みが結実した作品である。なおこのブロンズは、ロダンの生前ないし没後間もない時期の鋳造であり、技術・精度の高さと仕上げの美しさも特筆される。(M.T.)