女の顔(ボアの女)
おんなのかお(ぼあのおんな)
概要
画題にある「ボア」とは当時流行していた毛皮や羽毛でつくられた婦人用の細長い襟巻で、それを頸にゆるく巻き、椅子に腰掛けているのは萬の妻よ志である。彼女が身にまとう朱色の着物と緑の手甲との対比が鮮やかだが、この赤と緑の補色による色彩対比は萬が終生好み、多くの作品で用いている。ゴッホ風の激しい筆触はこの作品の大きな特徴だが、絵のかけられた壁面を背景に人物の膝から上の部分を真正面から描く構図自体も、背後に浮世絵をはりめぐらし、正面から人物を描いたゴッホ作品《タンギー爺さん》(参考図)から直接引用したものと思われる。当時日本では、実物のゴッホ作品を見る機会は無く、萬らの若い画家達は印刷物に掲載された複製などを通し手探りで学んでいた。《タンギー爺さん》は彼らの参考書籍で特に有名なハインド著『後期印象派』(C.Lewis Hind:The Post Impressionists, London, 1911)に収められる24点の図版の一つだった。