機織(はたおり)
概要
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機織(はたおり)
Weaving
1926年
絹本彩色・額 137.0×171.5cm
第13回院展出品作。「あの機織は京の西陣の機屋に参った時、薄暗い土間の空気の中に、蔭の如くに動く機織る人々の姿々を見て、其処に興味を感じて描いたのです。勿論其の観照の中心は終始機其のものに置かれてをりました」と作者はこの作品の着想を得た時のことを語っている(『美の国』第2巻第10号)。その言葉どおり、画面の中央に描かれているのは二台の機であり、目を引き付けるのはそこに張られた色鮮やかな糸である。その周囲にわずかに刷(は)かれた墨が薄暗い室内の空間を暗示し、しっとりとした京都の町屋の奥行きを感じさせる。直線からなる機の幾何学的な形態と、そこにかがみこむ二人の女性の柔らかな肢体とが緊張感のある構図を作り出している。画面に華やかさを加えている織り糸の彩色には、一方に白群(びゃくぐん)、もう一方の紫色の混じった方には西洋絵具を用いたという。糸の色から描き始めて全体の色の調和を図ったというあたりには色彩家らしい古径の細かい配慮がうかがわれる。室内における器物と女性という主題、抑制のきいた線描には、1923年のヨーロッパ旅行で大英博物館所蔵の伝顧●之(こがいし)筆《女史蔵図(じょししんず)》を模写した経験が生かされているようである。歴史画を得意とした彼が初めて現代風俗を取り上げたのは18年に発表した《いでゆ》であったが、それを現在の状態に描きなおしたのがこの《機織》の描かれた26年のことであり、ともに古典に学んだ経験を現代に調和させる実験的な試みと言えよう。