自画像
じがぞう
概要
新潟県長岡市出身の山路商(1903-1944)は、少年時代を大連で過ごし、1920年に広島市に移住。絵画や詩、舞台装置や評論など幅広い分野で活躍し、広島の美術史に重要な足跡を残しました。ヨーロッパの新しい美術思想に対する鋭敏な理解や、確かな造形性により、靉光や檜山武夫ら多くの芸術家に影響を与える一方、その前衛的活動により、1941年には特高に検挙されています。
この作品は、<自画像の画家>山路の晩年の肖像。面長な顔や丸眼鏡とともに、風貌の特徴だった長髪は、戦時のためか失われています。明暗のコントラストを際立たせ、表現の主体である顔を強調する一方、暗い色彩のうちに細部は沈み込み、茫洋とした人物像を示すようです。山路は、新しい作品に取り組む前に、必ずといってよいほど自画像を描き、その数は千枚を超えたといわれます。画面から伝わる自己への鋭い注視は、対象の本質を求める探究こそが、次なる作品を生むことを示唆しているのかも知れません。