一関本寺の農村景観
いちのせきほんでらののうそんけいかん
概要
岩手県南部の栗駒山(標高1,627m)東麓に水源を発する磐井川の流域には、河岸段丘から成るいくつかの小盆地が連続し、豊かな農村地帯が展開している。そのうちの一つが一関市の本寺の地域で、特に中世平泉の中尊寺経蔵別当領に関係する骨寺村荘園遺跡の諸要素が良好に遺存することで知られる。同時に、冷涼な気候や水がかりに難のある地形など自然的条件に適応しつつ、近世・近代を通じて稲作等の農林業を継続的に営むことにより緩やかな発展を遂げ、岩手県南地方の風土とも調和して形成された特色のある農村の文化的景観である。居住地と周辺の農耕地・里山は豊かな生態系を維持し、丘陵裾部の居住地に近接する区域には、比較的小規模で不整形な区画から成る水田が残されているほか、微地形に沿って巡らされた用水系統にも自然環境に対応しつつ形成された伝統的な農耕地の姿が窺える。また、水田地帯の中に散村の形式で展開する各農家は、北西より吹き付ける強い季節風から家屋を護るために、イグネと呼ぶ屋敷林が巡らされている。このように、一関本寺の農村景観は、特有の歴史的起源に基づきつつ、岩手県南地方に独特の農耕・居住の在り方を小規模ながら簡潔かつ十分に示しており、我が国民の生活又は生業を理解する上で欠くことのできない文化的景観である。