五島列島における瀬戸を介した久賀島及び奈留島の集落景観
ごとうれっとうにおけるせとをかいしたひさかじまおよびなるしまのしゅうらくけいかん
概要
五島列島中南部に位置する久賀島では、島の外延部を形成する標高2~300m級の山々から中央部の久賀湾に流入する河川が下流域に緩やかな傾斜の沖積地を形成しており、五島列島では珍しい棚田が営まれている。一方、島の外周は急峻な山々がそのまま海に沈み込む地形となっており、特に海流や季節風の影響を受けやすい島の西側には、急峻な海食崖が発達している。久賀湾に面した緩傾斜地には棚田耕作を生業とする比較的規模の大きい集落が形成される一方、急傾斜地が卓越する外海側には小規模な集落が形成され、段々畑での耕作や漁業が営まれてきた。また、外海に面し季節風が当たる地域を中心にヤブツバキの自生地が卓越している。現在も島内に2箇所のヤブツバキ原始林が展開するほか、集落から離れた自生地とは別に居住地近傍や耕作地の周辺にヤブツバキが植栽され、古くから利用されてきた。ヤブツバキの木質は堅く緻密で均質であり、木目はあまり目立たず摩耗に強い特質から、工芸品・細工物に使われてるほか、日本酒製造用の木灰、含有アルミニウム分を活用した染色、高品質の木炭、整髪用・美容食用・燃料用の油など様々な利用が行われてきた。
このように、五島久賀島の文化的景観は、地形条件に応じて形成された集落及びその生活・生業の在り方、また島内に2箇所のヤブツバキ原始林をはじめ、外海側に発達するヤブツバキ林・集落近傍に植栽されたツバキ樹とその利用によって特徴付けられる、価値の高い文化的景観である。