日の出(伊勢朝熊山よりの眺望)
概要
朝熊山は山頂に臨済宗の名刹金剛証寺があり「朝熊かけねば片参り」といわれるように、伊勢参宮の習慣と結びつき、近世はとくににぎわった由緒ある場所である。
「旭日」を題材に全国を写生中であった藤島が、朝熊山をなぜ訪れたのか、そのあたりは定かでないが、一八九三年から三年あまり三重県尋常中学校助教諭として津に滞在した経験があり、三重県には少なからず親しみを覚えていたことだけは確かであろう。
この作品は、ほとんどを現地で完成させたものと思われる。なぜなら、絵の具の乾かないうちに上から絵の具を塗り重ねる「ウェット・イン・ウェット」の技法ですべて描かれているからである。
しかも、わずかな種類の絵の具だけを使用し、画面上で絶妙に組み合わせている。そして、色味が単調な空などは、複雑で勢いのある筆のタッチで画面に変化を持たせている。
当時の藤島は、力強い、簡潔な構図を目指したといわれる。細部にこだわらず、何の飾り気もない本作品にもそうした彼の意図が十分に伝わってくる。 (田中善明)