男
おとこ
概要
筋骨たくましい男の裸体像は、萬鐵五郎が生涯温め続けたモチーフの一つである。作品の原型像は大正3年に描かれ、この「男」というモチーフは早くから彼の中に芽生えていたものであった。本作品の生成には次のような経緯がある。萬は《もたれて立つ人》(東京国立近代美術館蔵)に続くキュビスムの大作として、大正9年にこの作品に着手したが、彼の言葉によると「その時自分の手練に或る欠かんがあり、且つ体力にも充実を欠いて居たので」一旦制作を放棄した。ところが14年になって「今度或る充実を感じて来た」ので一気に仕上げたという。一つの主題と向かい合い、固有の造形に昇華させようとする画家の姿が浮かんでくる。全体を支配するリズミカルな筆のストロークは男の肉体の呼吸するリズムであり、同時に萬自身の肉体と精神の統一されたリズムを表す。キュビスムの造形言語と南画の精神に裏付けられた萬独自の肉体表現が結びつき、ここに未開の堂々たるモニュメントが現出した。