青い服を着た若い女
概要
意思をうちに秘めたようなまなざしとしっかりと結ばれた口元。このルノワールの比較的初期の肖像画は、こうした少女の表情のみでなく、画面全体にも、静かでいて凛と張りつめたような空気が行き渡っている。厳格な左右対称の構図。全体は黒と濃い青による仰えた色調でまとめられ、襟元の白がそれを引き締めている。その中で少女の顔に施されたわずかの薔薇色が、見事な輝きを見せている。
ルノワールが描いた女性像では、どちらかといえば後期の、陽光に照らされた午後のなま暖かい大気の中で、夢見がちにほほえんでいるタイプの女性が、一般に思い浮かべられがちである。ところが、この「青い服を着た若い女」は、それとは全く異なる雰囲気を漂わせている。それを何よりも象徴しているのが、黒いリボンを結んだ真っ白の詰まった襟元であろう。
光そのものを何とかして画面上に捕らえようとした印象派は、そのパレットから黒を追放しようとしたといわれる。後に印象派グループを離れていくことになるルノワールであるが、この作品が描かれた時期には、印象派展に参加し、明るい戸外の風景を筆触分割の技法を用いて描いている。しかしたとえこの時期であっても、ルノワールが描く画面においては、黒がしばしば重要な役割を果たしており、驚くほど鮮やかな手腕で用いられている。「桟敷席」(1874年)などの作品を見ても、ルノワールの色彩感覚の本領は黒と白にあるのではないかと思われるほどである。(土田真紀)