熱国之巻(暮之巻)
ねっこくのまき くれのまき
概要
いかにも南方を思わせる自然や建物、暮らしを営む人々のすがたが、10メートル近い巻物に展開しています。日本の伝統的な絵画の形式、材料、技法にのっとりながらも、異国情緒あふれる主題、明るく強い色づかいと金砂子による光の表現、単純化されたモチーフや点描をもちいたタッチなどが、強烈な印象を与えます。
作者の今村紫紅は、1880年神奈川県に生まれ、1916年に没した日本画家です。日本絵画の伝統を乗り越え新しい境地を切り開くことを強く意識し、創作を行いました。その革新的な作風は当時の画壇に衝撃を巻き起こし、後の画家たちにも大きな影響を与えたといわれています。この作品はそうした創作態度をまさに体現したものであり、紫紅の代表作です。
1914年、紫紅はインドに旅行します。途上で各地に寄港しながら、インドのカルカッタに到着し、15日滞在しました。旅行中の取材をもとに構成し描かれたのがこの作品です。「朝の巻」「夕の巻」の2巻があります。「朝の巻」はシンガポールやマレーシアのペナンの水上生活者に、また「夕の巻」はインド東部のガンジス川の支流に位置するカヤに取材したとも考えられています。