博物館魚譜 第8帖
はくぶつかんぎょふ
概要
さまざまな種類の魚を描いた紙片1,864点をスクラップして編さんした図譜、つまり図鑑です。多くは他の図譜から切り抜いたものですが、新たに描かれた図もあります。新たに描かれた571点は、19世紀の江戸幕府で医師を務めた栗本丹州(くりもとたんしゅう)が描いていますが、そのおよそ半数は、18世紀の図譜から模写したものです。また日本で本格的な西洋の油絵の技法を習得した最初の画家とされる高橋由一(たかはしゆいち)が描いた図も含まれています。絵を描いた画家の数は、10数名におよびます。
魚たちは、微妙な筆づかいや多様な色を使い分け、きわめて詳細に描かれています。ある魚は、よりリアルな質感を出すために、裏からも彩色を加えたり、「雲英(きら)」というキラキラ光る粉末を塗って光沢を出しています。また形や色などの特色、別名、産地などのデータを文字で記したものもあります。
日本では江戸時代18世紀ころより、動物・植物・鉱物などを個体別に詳細に記録し研究する「博物学」が盛んとなり、個体ごとの詳細な絵やデータを記した図譜が編さんされました。博物学者であり、明治5年、1872年の東京国立博物館の発足に力を注いだ田中芳男(たなかよしお)も、膨大な動物や植物の写生図を収集して、スクラップブックのような形に仕立て、東京国立博物館に残しました。この図鑑はそのうちの一冊です。