対馬の盆踊
つしまのぼんおどり
概要
対馬の盆踊は,近世前期から伝わると考えられる演目とともに,後期から加わったと思われる演目もあるなど,成立背景も重層的で,複合的な内容を含んだ盆踊である。また手振りや足使い,扇使いといった所作にも独特のものがあり,本件は九州最北端の離島である対馬における,盆踊の展開や特徴をうかがわせる事例である。
対馬の盆踊は,長崎県対馬市各地の村落において,旧暦7月(現8月)の盆に踊られる。各地区旧家の長男を中心とする男性によって踊られ,また二列縦隊を基本隊形とする盆踊である。伝承曲は地区により異なるが,祝言と呼ばれる演目類を含む点が,特徴の一つである。祝言は扇子踊又は手踊であるが,生み字を長く伸ばした独特の旋律で歌われる歌に乗せ,踊りは腰を低く落とした姿勢を終始保ちつつ,両手を同時に前に出す振り,手首の返し方,親骨をつまむ扇使いなどに独特の所作が見られる。また足使いも前方に足を滑らせるように出すなど,特徴的である。祝言の他,綾竹,長刀,杖などの道具を手にして踊るもの(採り物踊),あるいは役柄の扮装を伴い,物語風の内容を演じるもの(仕組踊)など,成立時期が異なると考えられる多様な踊りを含んでいる。
踊り子は6から12名ほどが二列縦隊を基本として位置を占め,その付近で鋲留太鼓を桴で打つ者や,歌い番(地謡,ジューテーとも)が演奏する。歌い番が複数の地区,太鼓を打ちつつ歌う地区,また踊り子が歌いつつ踊る曲がある地区も見られるが,基本的に踊り子を務め上げた者が演奏に回る慣習になっている。なお盆踊の場には,笹竹に布で作った飾りや色紙などを飾ったエヅリ(エツル,エンヅリ等とも)が掲げられる。エヅリは祖霊の依代と考えられ,踊り子たちは踊りの場への行列に際し,先頭に掲げるほか,盆踊の終了後には,所定の地に納めたり,川へ流したりする。