押出蔵王権現像
概要
大峯山(おおみねさん)は、奈良県吉野郡吉野町(よしのちょう)から和歌山県東牟婁郡本宮町(ひがしむろぐんほんぐうちょう)に連なる山々です。古くは8世紀の奈良時代から霊山として知られ、山岳信仰や修験道、仏教などさまざまな宗教関連の遺跡が数多く発見されています。このうち、この作品が見つかった大峯山頂遺跡は、天川村山上ヶ岳(てんかわむらさんじょうがたけ)山頂にある遺跡です。蔵王権現は、修行者たちを守る仏として祀られてきました。
この蔵王権現は、銅板をたたいて立体的に像を打ち出し、鏨(たがね)などの工具で模様を彫ってつくられています。今も一部に残っていますが、もともとは全体に鍍金(めっき)が施されていました。髪と衣に小さな丸い穴が2か所あけられています。円形の銅板に鋲で留めて、お寺の堂内などにかけた懸仏(かけぼとけ)の一部であったのかもしれません。
蔵王権現は、人々を救済し、魔物を降伏させるために現れた仏のすがたと考えられています。一般的には、逆立つ髪の毛、怒りのまなざし、口の両端から牙をのぞかせた姿で表され、その背後には火炎が燃え盛ります。また、右手には密教法具である三鈷杵(さんこしょ)を握り、左手は刀印(とういん)とよばれる印(いん)を結んで腰を押さえます。さらに右足は大きく大地を蹴り上げ、左足は大きな石を踏みつけています。
この作品もほかの蔵王権現と同じように、逆立った髪の毛や、特徴的なポーズであらわされています。しかし、表情や表現は、どこかユーモラスでかわいらしくさえ見えますね。展示室では、大地を蹴って、大きく空中に跳び上がっているかのように見えるかもしれません。
みなさんにはどのように感じられますか。